腰痛とは「安静時・運動時を問わず腰部の疼痛を主訴とする疾患の総称」と定義されています。
腰痛のうち、腰部椎間板ヘルニアや脊椎圧迫骨折などの原因が特定できる特異的腰痛は全体の15%、画像所見で明らかな器質的変化が認められず、原因が特定できない非特異的腰痛は約85%と、腰痛の要因はまだまだ不明な点が多いです。
非特異的腰痛の中で、筋・筋膜性腰痛症が存在します。
腰背部筋の構造は、内側群として半棘筋、回旋筋、多裂筋、外側筋として腸肋筋、最長筋などが挙げられます。
これらの筋肉は、共通の胸腰筋膜という線維性の筋膜に包まれ、胸腰筋膜が伸張されることにより生じる緊張状態は、腰背部を安定化させることが明らかになっています。
しかし、過度な伸張ストレスは筋・筋膜性腰痛の原因となることもあるため、適度な筋緊張が必要です。
不良姿勢により生じる胸腰筋膜の緊張状態は、腰背部の安定性を高めます。一方で、他動的伸張のため腰部固有背筋群の筋力低下を招き、その結果、胸腰筋膜への依存がさらに強くなります。
胸腰筋膜への過度な伸張ストレスは、筋膜疲労や炎症などを引き起こし、最長筋や腸肋筋などに過度な筋緊張が生じるため、疼痛が生じる場合が臨床場面で多く見られます。
脊柱の伸展活動比率として、多裂筋は20%、最長筋と腸肋筋で80%と大きな差があります。筋発揮としては最長筋、腸肋筋と比較し約4倍の伸展モーメントの差がありますが、多裂筋は、腰椎安定性をコントロールする重要なインナーマッスルとして知られており、注目する必要があります。
最長筋、腸肋筋の筋緊張が亢進していると、多裂筋は十分に筋収縮が発揮できません。多裂筋の筋活動を超音波で確認すると最長筋、腸肋筋リラクゼーション前後で比較した場合、リラクゼーション後で多裂筋の筋収縮が増加します。これは、多裂筋の筋滑走を最長筋、腸肋筋が阻害している為と考えられます。
つまり、多裂筋の筋活動を効率良く出すためには、最長筋と腸肋筋の筋緊張を確認し、筋緊張が高い場合はリラクゼーションを実施し、その後に多裂筋へアプローチしていく必要があるということです。
言い換えれば、最長筋と腸肋筋の筋緊張亢進及び胸腰筋膜の緊張亢進状態が続くと、多裂筋の筋活動を阻害し、廃用が進む可能性があるということです。
実際の患者様へ運動指導する際は、多裂筋と最長筋・腸肋筋の筋緊張にインバランスが生じていないか触診で確認することが重要となります。